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~創立20年の歴史と伝統を礎に~
本校は、清流日本一の後志利別川が流れる自然豊かで人情味あふれる地域コミュニティーの町、今金町に平成9年に開校し、今年で21年目を迎えます。
今金町の町民や企業、行政の方々の熱心な誘致運動の結果、ここ今金町に開校し、町民の全世帯が本校の後援会に加入される等、町民・企業、行政の方々の力強い御支援をいただき、今日まで教育活動の充実に努めて参りました。学校と地域とは、地域の学校として地域の企業や農場での職場実習、地域の各種行事への参加、施設開放事業など、相互互恵的な関係が築き上げられています。
地域の環境や素材を生かした授業として、産業科では、町内の飲食店から発注を受けて製品を製作し納入(清流焼きなど)することも行っています。また、農業科は地域施設における花の販売や檜山北高等学校と合同で地域の道路沿いの花壇つくりに取り組み、生活家庭科は、廃油せっけん作りや紙すきによる便箋や名刺製作などを行い、販売も行っています。
地域からの本校への支援活動としては、今金町では就労支援活動として全道に先駆けて平成22年11月、「特別支援学校卒業生に対する今金町就労支援事業実施要綱」を制定し、平成23年度から本校の卒業生を役場の臨時事務嘱託員(非常勤特別職職員)として採用し、2年間の実務経験を通して社会人・職業人としてのスキルアップを図り、一般就労につなげる取り組みを行っています。事務作業を通じて、学校では経験することが難しい事務処理能力や調整能力、社会性を身に付けて、これまでに4名が環境整備業務、社会福祉業務、介護業務などの業種に一般就労しております。
平成26年度からは、今金町の呼びかけで全道の9町村の町村長と教育長が参加して「道立高等養護学校所在町村交流・連携の会」が発足し、高等養護学校への支援や卒業生の就業機会の確保に向けた取組が開始されました。また、平成26年度から今金町商工会では、中小企業庁の補助を受け、町内の各関係機関と連携して本校の卒業生の働く場所と住む場所を創出する取組を開始しました。在学中に町内の農家や小売・サービス業等の事業所で現場実習を行い、卒業後は今金町の基幹産業である農業に従事しながら、通年雇用される枠組みについて検討が行われ、平成29年2月には一般社団法人として発足しました。
平成29年4月には、商工会事業で2名の卒業生が一般社団法人に一般就労するとともに、町内に建設される植物工場に2名の卒業生が一般就労しました。
また、平成27年7月には、今金町及び今金町商工会並びに道外企業が、「コミュニティビジネス創出に関する事業連携協定」を締結し、本校卒業生の雇用の取り組みを連携して行う枠組みが整えられました。同年12月には、今金町では「今金町まち・ひと・しごと創生人口ビジョン及び総合戦略」(27年度~31年度)を策定し、その基本戦略の基本目標1として、「基本目標1 今金町における安定した雇用を創出する」とし、「障がい者が地域産業の担い手となる活躍の場づくり」が具体的な施策として設定され、主な取り組みとして「今金高等養護学校卒業生雇用の促進」が掲げられました。
今後、町内で就労する卒業生が多くなることから、初めて障がい者雇用を行う企業が増加することが見込まれ、従来以上に就労支援の体制を強固にする必要が生じてきました。そこで、平成28年度には、「雇用中の対応」、「雇用事業者及び相談支援事業所、光の里の地域支援係等のネットワーク構築」、「雇用事業者間の情報共有、意見交換」、「自立支援協議会(就労支援部会)への提案、提言等」など協議する場として、「障がい者雇用事業者連絡会」が自立支援協議会と関連付けて立ち上がりました。学校側の取組としては、平成28年10月には今金町と本校が、全道に先駆けて「特別支援学校卒業生に対する就労支援並びに自立支援に関する連携協定」を締結し、町ぐるみで本校の在校生と町内に就労する卒業生への支援体制の枠組みが構築されました。平成29年度は在校生の実習や就労支援・自立支援に関わって生じる諸課題の明確化と課題解決策の検討・推進を図るため、「今金町キャリア教育・職業教育研究フォーラム」を設置し、「障がい者雇用事業者連絡会」と連携を図りながら、支援の充実を図って参ります。
さて、本校では、キャリア教育に関して、平成24年度に「今養版キャリアプラニング・マトリックス」(以下、「マトリックス」という。)を策定し、これに基づいた教育課程の改善に取り組んできました。平成27年度には、作業学習に関する項目が多く含まれていた「マトリックス」を改訂し、教育課程の基本となるように幅広い内容に変更し、併せて、「マトリックス」と関連付けて作業学習・生活単元学習の全体計画を作成し、指導要素を配列した「指導内容表」との整合性がとれるように、「指導内容表」の指導要素を改訂しました。平成28年度には、「指導内容表」の指導要素の指導学年を明確化するとともに、「指導内容表」の内容と現行の「各指導の形態(生活単元学習・作業学習等)の年間指導計画」の内容の照合を行い、指導要素と年間指導計画の関連付けを明確化しました。
その結果、「学校教育目標」―「目指す生徒像」―「キャリア教育目標」―「今養版キャリアプランニング・マトリックス」―「各指導の形態(生活単元学習・作業学習等)の全体計画」―「指導内容表」―「各指導の形態(生活単元学習・作業学習等)の年間指導計画」―「各指導の形態(生活単元学習・作業学習等)の単元の指導計画」のつながりが、内容面で一貫性と妥当性のある教育課程となりました。
このようにして作業学習を中心とした「ワークキャリアアップ」と生活単元学習・総合的な学習の時間を中心とした「ライフキャリアアップ」が可能なる教育課程(教科を除く)が完成しました。
今年度の重点目標は、「①生徒一人一人のキャリア発達を促すための系統的・重層的な指導を推進し、個々の進路を実現する。」、「②社会への移行期である後期中等教育の場として、適切な生徒指導と生活指導の充実を図る。」、「③管内における特別支援教育の進展に寄与できるよう努める。」の三点です。
特に、卒業と就職が生徒にとっての大きな目標ではありますが、就職後も生涯にわたり社会において働き様々な職業能力を高め(ワークキャリアアップ)、自分に求められる様々な役割を果たしながら、地域社会に貢献するとともに、自分らしい生き方ができる生徒の育成(ライフキャリアアップ)に努めて参ります。
そのため、生涯にわたるキャリア発達を育成する観点から、作業学習、現場実習、教育内容全般を検討し、働く力、生活の自己管理能力、コミュニケーション力、生活スキルを育てる学習指導及び生徒指導並びに生活指導の充実に努めます。
平成26年度に行った就労先への卒業生の課題に関する調査結果を踏まえて、日常の授業において生徒相互が話し合い、学び合い、高め合う「協同学習」を平成27年度から授業に取り入れました。平成28年度には、「協同学習授業マニュアル」を作成し、全教職員がマニュアルに基づいて同じスタンスで同じ授業方法で授業実践できるようにしました。その結果、生徒個々のコミュニケーション能力と課題解決力が向上し、中3生対象の学校説明会や中2生対象の学校見学会では、生徒が学科の作業内容の説明するとともに、作業実習室で作業内容を説明したり、質問に的確に答えられるようになりました。また、2名ペアや小グループでの話し合いと課題解決ができることが多くなり、「指示されて行う作業学習ではなく、自ら考え工夫し話し合って課題解決する作業学習」へと変わってきました。その成果については、「知的障がい教育における協同学習の実践」という冊子を今年度発行する予定です。平成29年度は協同学習を活用した主体的・対話的で深い学びが実現するように実践研究を一層深化させていきます。
また、就労先の多様化と卒業生の課題を考慮し、27年度入学生から国語・数学の時間数を増やし、週二コマとして教科学習にも力を入れております。そして、現実的な自己理解の促進と思考力・判断力・道徳的実践力を高めるために、平成27年度から、生徒自身が自己理解を深め、適切に判断し行動できるようにする活動(「生活日記」)に取り組み、自己理解の促進や自己指導能力の向上が成果として現れてきました。今年度からは、長期休業期間中のみならず週末の帰省や週末在舎の際も取り組み、生活の自己管理能力を一層高めていきます。総合的な学習の時間は、平成27年度から、進路学習、情報「地域学習」の内容で構成しました。学校評議員会で卒後の地域生活への円滑な移行が課題として挙げられたことから、平成28年度から、総合的な学習の時間の「地域学習」に今金町について学ぶ「今金学」と出身市町村について学ぶ「地域学習」を設定しました。
本校の教育課程の中核の一つである作業学習については、平成27年度から異学年合同の作業が行えるように時間割等を変更し、協同学習を活用した作業学習の実践に取り組みました。
第1期~第17期(平成27年度卒業生)までの進路先を見ると、一般就労と福祉的就労(移行支援・授産を含む)を合わせ、在籍学科に関係なく「食品加工・水産加工」が71.1%、「流通・サービス」が16.7%、「農林水産業」が7.8%、「環境整備」が3.3%、「介護」が1.1%という結果でした。
このことを踏まえて、平成28年度からは、在籍する学科(産業科・農業科・生活家庭科)の「もづくり作業」を中心としながら、進路動向とリンクした「学科共通作業」(環境整備、流通・サービス、食品加工)に試行的に取り組むこととし、町内の公共施設の環境整備、総合福祉施設での車いす清掃、町役場での町内会配布物の仕分け作業、町内の多機能型事業所「ワークショップいまかね」と協力した商品開発(ショコラクッキー)などを実施しました。ショコラクッキーは平成28年11月の創立20周年記念式典参列者や平成29年2月に今金町で開催された「第36回北海道障がい者冬季スポーツ大会」参加者へプレゼントされたほか、学校祭や販売会で販売され完売しました。なお、賞状は本校生活家庭科の紙すき作業で生産した用紙を使用しました。
「ものづくり作業」は直接的・具体的思考を用いた目に見える作業であり、知的障がいのある生徒にとっては取り組みやすく、学習の成果が目に見える作業で効果的です。しかし、単に提示された物を作る「ものづくり作業」で育成できる職業能力は、働く力の基盤づくりには役立ちますが、より目に見えにくい、形になりにくい作業を抽象的な思考により遂行する力を育てることにはつながりません。生徒の実態は多様化しており、従前の提示されたものを指示に添って作る「ものづくり作業」では生徒の実態に合わなくなってきています。
現在の生徒の実態を踏まえると、生徒自らが教師や専門家の助言を受けながら、新製品の企画・開発、仕入れ、生産計画、販売計画、予算決算など、事務作業も含めたより質の高い作業に取り組む専門高校に近い学習内容を設定する必要があります。
しかし、このような「ものづくり作業」の質を高める枠組みを設定しても、学校内で可能な作業には限界があります。例えば、人とコミュニケーションしながら物事を調整し、業務を進める事務サービスや流通・サービスには、より高度な抽象的な思考や判断、ティームワークによる業務推進が求められます。ステップアップした作業能力の育成には、このような「サービス業務」が向いており、生徒の更なる能力開発につながります。より産業現場に密着した多様な作業能力は、学科共通作業のみならず、受注作業や商工会事業による実習、生徒の課題に応じた個別の現場実習を頻回に行うなど一層拡充することにより可能となります。
そこで、平成29年度からは、「新しい形の高等部」に全道の高等支援学校が転換されることに合わせ、本校では、学年進行で産業科は窯業科、生活家庭科は家庭総合科に変わります。作業学習は専門教科の作業学習(自学科作業、他学科作業)では、生徒自らが陶芸家や農家などの専門家からの助言を受けながら、新製品の企画・開発、仕入れ、生産計画、販売計画、予算決算など、事務作業も含めた質の高い作業に取り組む専門高校により近い学習内容(模擬株式会社)をPTAと連携して設定します。家庭総合科では、八雲高等学校総合ビジネス科と共同で商品開発を実施します。
学科共通作業は共通教科の作業学習(職業・家庭)として、環境整備、流通・サービス、食品加工を実施します。様々な職業の現場に密着した多様な作業能力は、学科共通作業のみならず、受注作業や商工会事業による実習、生徒の課題に応じた個別の現場実習を拡充することによって可能となるため、実施回数と内容の拡充に努めていきます。
商工会事業による就労予定者を主な対象とした商工会実習は、平成27年度からスタートし、着実なワークキャリアアップが図られ、町内での一般就労につながってきました。この「今養型デュアルシステム」は、行政及び産学連携による地域一体型デュアルシステムともいうべき形態に変わってききました。デュアル実習Ⅰは受注作業(役場、農家・商店等)であり、社会貢献実習(奉仕活動)を兼ねています。デュアル実習Ⅱは商工会実習であり、商工会事業による今金町内就労予定者を主な対象として行います(進路先に応じた「コーススタディ」)。
今金町役場と今金町商工会の取り組みにより町内の一般就労者は、平成26年度までの役場への就労(毎年1名、2年間)から、27年度は商工会事業で2名、役場で1名の計3名の雇用となり28年度からは、商工会事業による一般社団法人で2名、植物工場で2名、役場で1名の計5名の一般就労となりました。
地域における特別支援教育のセンター的役割についてですが、本校は檜山管内における唯一の特別支援学校です。平成22年度から今金町の5歳児健診のスタッフとして、本校の特別支援教育コーディネーターが参画しており、平成27年度からはせたな町の5歳児健診にも同様の形で参画しております。平成25年度からは今金町教育委員会と保健福祉課と連携協力し、「子育てスキルアップ術学習会」を開始し、障がいに限定されない子育てに焦点を当てた保護者支援に努めています。
また、本校に入学してくる生徒の実態が多様化するとともに、十分な引き継ぎが行いにくい実情から、中高一貫したキャリア教育の実現を目指し、個別の教育支援計画が中高一貫した計画となるよう、平成27年度檜山教育局管内の特別支援連携協議会の「個別の教育支援計画」(ひやまModel)の作成においては、キャリアプランニング・マトリックスと中学校・高等学校版の「マイキャリアプラン」の試案を提言し、平成28年度は同じく「個別の指導計画」(ひやまModel)の作成に協力し、特別支援学校の立場からセンター的機能を発揮してきました。
今後も、早期からの相談支援のほか、幼稚園・保育所、小・中学校、高等学校、企業・行政機関との連携を深め、特別支援教育の一層の充実に取り組んで参ります。
結びに、今後も社会情勢の変化や生徒の実態の変化を踏まえながら、地域と共に学び、地域と共に創造し、地域と共に生きる、地域貢献できる人材を育成して参ります。
北海道今金高等養護学校長 髙 嶋 利次郎
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